就活生の意識変化に見る採用活動処方箋|第4回 転職に対する社員の考え方と企業の現状
戸川 博司 株式会社ハウテレビジョン
ビジネス本部 事業開発部 部長
2002年㈱リクルート入社。㈱ヒューマンシップを経て現職に至る。
リクルート時代に新卒・中途採用領域の営業マネージャーを務め、求人広告の提供以外にも、社員研修やインナーコミュニケーションなどHR領域全般の支援を行う。
これまでのキャリアを通じて、コンサルファーム、IT、商社、メーカー、メディカルなど東証一部上場企業からスタートアップ企業まで幅広い支援実績がある。
現職では新卒採用向け『外資就活ドットコム』と中途採用向け『Liiga』の採用プラットフォーム運営に携わっている。
柴田:
人材の流動性は高まっています。早期離職は避けたいですね。
戸川:
新規学卒就職者の就業後3年以内の離職率は、昔から3年3割と言われていて、この比率に大きな変化はありません。ただ、終身雇用時代が終わり、自分のキャリアについて考えている人が増えているのも事実で、入社1年目でも転職サイトに登録している人も多くいます。会社に強い不満があるわけではないものの、自分にどのようなキャリアの可能性があるのか、転職のタイミングやネクストキャリアとしてベストな企業はどこなのかということに関心があるようです。
柴田:
なるほど。
戸川:
前職で人材紹介のコンサルタントをしていたときは、入社間もない若手から、将来目指す姿に向けて次のフィールドはどこが最適なのかといったご相談や、1~2年後の転職を見据えたご相談などをいただく一方で、想像していた業務や風土とは違うという理由で、入社間もないタイミングで転職のご相談をいただくこともありました。転職プラットフォームが広がったことで、転職エージェントと気軽に会えて相談できる環境になったからこそのご相談だと捉えており、このこと自体はポジティブなことなのですが、1点気を付けていただきたいこととしては、自分へのスカウトメールの多さだけで、自分の市場価値が高いと勘違いしてしまうことです。
柴田:
確かに、転職サイト側はとりあえず登録して自分の市場価値を確かめませんか、と勧誘していますね。半期に1回、1年に1回職務経歴書を更新し、転職しなくてもキャリアの棚卸を目的とする転職2.0の考え方も意味があるとは思いますが、確固たる意志が無い過程で手にする魅力的なオファーは危険な気がします。
戸川:
自分の市場価値を知りたいという気持ちは理解できます。ただ、これまでの仕事で培ってきたスキルや経験を自覚し、ぼんやりとでも目指す姿があり、次の転職で何を得たいのかということを持っていてほしいですね。その上で適切なタイミングでの転職だったらよいのではないでしょうか。
柴田:
会社からの評価に不満があって転職を検討しているという場合はどうでしょうか?
戸川:
評価に対する不満、評価者である上司との人間関係の問題が、転職理由の上位に挙がってきます。また同じ部署に長くいるため視野が狭くなったり、変化を感じられないことに不安や不満が溜まっていくというケースもあります。
会社には様々なキャリアパスがあるのですが、社内周知が上手くできていない企業が多い印象です。そのため、退職を考えていると伝えると、違うポジションを打診され転職を撤回するという事例を多く聞きます。
柴田:
会社側が用意しているはずの多様なキャリアパスが社内で知られていないのはもったいないですね。
戸川:
一部の大手企業では社内公募制度などがありますが、自分の望む仕事があるのかは、なかなか分からないと思います。相談された上司も自分の経験範囲内でしかアドバイスができないことも多く、あるはずの選択肢が十分に理解されず吟味されないまま転職してしまうケースが多くなってしまっているのではないでしょうか。
柴田:
上司はいかに適切なコミュニケーションを図るかが重要ですね。今いる社員を大切にしていくという風潮はこれから一層強くなっていくのではないでしょうか。
戸川:
大手企業での人的資本開示の義務化やリスキリングへの取り組みなど、人材という資本をいかに活用していくのかということは、今後益々経営の中での重要度が高まっていくことは間違いないでしょう。また、制度や研修を整えるだけではなく、人の強みを見立て活かすミッションアサイン、マネージャーの関わりといったマネジメント力の向上に全社をあげて取り組んでいくことが重要なポイントになると捉えています。
(聞き手:アクティベーションストラテジー㈱コンサルスタッフ 柴田)
【次回以降連載予定】
第1回 学生の就業観の変化
第2回 必要となる企業側の備え
第3回 これからの採用手法
第4回 転職に対する社員の考え方と企業の現状
第5回 学生から見たコンサルティング業界とは