業務・システム改革プロジェクトの進め方 第3回:フェーズⅡ【改革の基本構想策定のポイント】
第2回は、業務・システム改革プロジェクトの進め方のフェーズⅠである「改革の基本構想策定」のポイントについてご紹介しました。
今回はフェーズⅡとして、実際の業務の詳細化及び業務・システム要件定義を行う「改革の構想具体化と実行計画策定」についてお話しします。
このフェーズで実施することは、業務・システム改革効果の最大化とシステム化投資の最小化の両立を目指した、業務の詳細化とシステム基本設計です。
これは事業運営上の重要課題であり、経営陣の最大関心事ではないでしょうか。
業務・システム改革効果の最大化については、次回以降で具体的な改革事例に基づきご説明する予定ですので、今回はシステム化投資の最小化を中心にお話しします。
まず、改革の狙いが業務・システム改革であってもシステム開発が伴うと開発要件が膨らんでしまうケースが多々あることに着目しましょう。
その原因の一つは、情報システムの位置づけと、システム部門やユーザー部門の役割の変化により浮き彫りとなった「システムの解らない業務担当者」と「業務の解らないシステム担当者」の存在です。
従来、情報システムは一般的な事業会社において、ユーザー部門の現場業務を合理化するツールとして認識されてきました。
しかし現在は、その位置づけが大きく変わり、業務オペレーションと一体となって事業を推進する両輪の役割が求められています。
それに伴い、業務オペレーションとシステムの機能やカバー範囲を同時に捉えて、現場業務から情報システムの要件へと収斂していく必要がでてきました。
ところが、現在の多くの企業において、ビジネスを実行するユーザー部門とシステムの企画/開発を行うシステム部門は機能的に分離されており、
加えて、これほど情報システムが普及する以前は、情報システムには特別な知識やスキルが必要とみなされ、システム部門にそれらを集中させてきたため「ビジネスが理解できないシステム部門」「システムが理解できないユーザー部門」を生み出したのです。
その結果、システムに対する要求の難易度や、その要求に対応するための必要工数を理解できていないユーザー部門、或いはビジネス上の課題を正しく認識できないシステム担当者によって要件定義が行われ、システム仕様(≒“Investment”)が肥大化しているケースが散見されます。
これらの事象に対しては、プロジェクトの体制や運営面で意識的にビジネスとシステムの融合を行い、投資の最適化を図る必要があります。
- 「改革の基本構想策定」フェーズでは業務改革、システム改革のチーム分けを行わず一体運営
- 「改革構想の具体化と実行計画策定」フェーズでは、先行して活動していた業務改革チームのメンバーを最低でも半分はシステム改革チームにシフト
- システム化進捗会議への業務改革チームリーダーの出席
次に、システム化要件の絞込みが不十分であるケースです。
“Investment”の最小化は、業務改革の優先順位が低い業務領域におけるシステム投資を、如何に抑えるかに他なりません。
それを実現するためには、何らかの基準に基づいてシステム投資の優先順位を決定する必要があります。
優先順位の考え方は、業務改革の基本方針との整合性の担保が大前提ですが、その他には期待効果の大きさや実現可能性を考慮する必要があります。
言い換えれば、効果を生み出さない投資を極力抑えなければならないと言うことです。
優先順位が低いシステム化要件は、簡易ツールや業務オペレーションでカバーするなどの具体的な代替案を検討し、要件の足切りや簡素化を実施していく必要があります。
その際に、投資の総予算を念頭に置き、投資効果を検討しつつ実施することが重要です。
業務・システム改革は、過去のしがらみを断ち切って新たなやり方を創造することです。
ただ、その時に業務、システムのいずれかに偏った判断を行うと改革効果の最大化が実現できません。
経営陣、ユーザー部門、システム部門が一体となって、新たな仕組みを共に作り上げる共創力が求められることになります。
また、要件の足切りや簡素化を実施する場合に、留意しなければならない点がいくつかあります。
討議のテーブルに上げられたシステム化要件は、ユーザー部門に対するヒアリングにより露呈するものが大半です。
その要件案は要望を上げた担当者にとっては必要だと思っているものばかりです。
その要望をプロジェクト側が一方的に却下してしまっては、担当者の気分が良いはずはありません。
そこで感情的なこじれが生じると、新業務・システムの定着化の阻害要因にもなりかねませんから、足切りや簡素化を行う場合には、何故その要望が今回の対象範囲から漏れたのかを丁寧に説明し、その担当者が代替手段で納得出来るまで議論することも重要です。
「改革の構想具体化と実行計画策定」のポイント如何でしたか?人・物・金・時間が無尽蔵にあれば、どんな要件でもシステム化することは可能です。
しかし、現実問題としてそれが出来ない中、効果の最大化と投資の最小化と言った相反する命題のバランスを取ることが、業務・システム改革プロジェクトの根幹であると我々は認識しています。
次回はフェーズⅢ:「改革の実行/定着化」のポイントについてご紹介します。
CDIソリューションズ(現アクティベーションストラテジー) 代表取締役CEO
マネージングディレクター
小川 克己 (おがわ かつみ)