就活生の意識変化に見る採用活動処方箋|第1回 学生の就業観の変化

戸川 博司  株式会社ハウテレビジョン

ビジネス本部 事業開発部 部長

2002年㈱リクルート入社。㈱ヒューマンシップを経て現職に至る。
リクルート時代に新卒・中途採用領域の営業マネージャーを務め、求人広告の提供以外にも、社員研修やインナーコミュニケーションなどHR領域全般の支援を行う。
これまでのキャリアを通じて、コンサルファーム、IT、商社、メーカー、メディカルなど東証一部上場企業からスタートアップ企業まで幅広い支援実績がある。
現職では新卒採用向け『外資就活ドットコム』と中途採用向け『Liiga』の採用プラットフォーム運営に携わっている。

柴田:

学生の就業観と企業選びの変化について伺いたいと思います。20年前と10年前と今とでは、学生が企業に求めるものや企業選びといった点でどのように変化を感じられていますか?

戸川:

就職ランキング上位に入ってくる企業はそれほど変わっていないのではないでしょうか。
航空会社や旅行会社・ホテル、それから消費者として自分たちが楽しい体験をして接触したことがある企業・業界に仕事として関わりたいという理由から志望する学生が多くランキング上位に入るのですが、上位校だけに絞ってみてみると三菱商事やマッキンゼーといった総合商社や戦略コンサルティングファームがランキング上位を占めてきました。IT関連企業の人気が上がり続けているのは大きな傾向の1つといえるのではないでしょうか。

柴田:

なるほど。

戸川:

就職の人気ランキングというのは、学生全体を調査対象としているものが多いので、例えば、大手金融機関などでは、総合職や一般職といった異なるターゲットからの票を獲得できるため、人気として高くなりやすいという傾向があります。
学生の就業観の変化ということでいえば、20年以上前は最初に就職した企業でずっと働くという考えが主流でしたが、近年は、転職が当たり前になってきたことやベンチャー企業が増えてきたことなどもあり、大手企業一辺倒の考えから新卒でベンチャーに入る、就職せずに起業するという新しい選択肢が増えてきたと感じています。特に上位校の学生においては就業観の多様化が進んでいるように思います。
副業が認められる企業も増えており、学生時代にインターンシップに参画していた企業の案件を、新卒で企業に入社してからも副業として続けるというケースも出てきています。こういった事例からも、働き方・就業観は多様化してきていると実感します。

柴田:

学生から見た「良い企業」という評価は変化していますか?

戸川:

どういう企業が良いかという基準も変わってきていると思っています。
以前は知名度の高さ、規模の大きさ、年収の高さなどが良い企業の基準となっていました。
最近では、これまで通り福利厚生や給与についても大事な基準ではありますが、スキルが身につき成長できる環境か、リモートワークに代表される働き方の柔軟性があるか、といったこともよい企業の基準となってきています。
それから、最近『配属ガチャ』という言葉を耳にしますが、やりたい仕事ができるかどうか、配属の希望が通りやすいかどうかという点も、良い企業の条件として挙がってきているように感じます。

柴田:

今、採用に携わっているのですが、同じような変化を私も感じます。何故このような価値観の変化が起きているのでしょうか。

戸川:

入社すれば退職するまで安泰と思われていた大手企業の経営破綻や業績悪化、事件事故といったニュースを多く目にしている中で、大手に入ることが正解ではないという認識が広がってきているからでしょう。
また、新しい産業としてIT企業が増えてきています。スタートアップも増え、上場するベンチャー企業も増えてきています。こういった新しい企業は、踏襲する習慣がそもそもないため、一から働きやすい制度を作っています。意思決定が早く、社員間の関係もフラットで、魅力的に映っているのではないでしょうか。

柴田:

以前からの慣習を継続している「ザ・日本企業」の場合、どのように学生たちを魅了していけばよいのでしょうか。また企業体制や文化そのものを変えていかなくてはいけないと思うのですが、どういうところに気をつけないといけなと思いますか?

戸川:

前提として、新興のIT企業が良くて、長い歴史のある企業が悪いという話ではありません。
特に大手の企業では、新人から様々な業務を経験して、10年・15年たって一人前となり、初めて関われるビックプロジェクトがあったりするわけです。言い換えるとやりたい仕事をやるために、経験しなければならない仕事が多いということです。
このように、事業内容によって、必要な人材を育てるためのキャリアステップが異なり、時間がかかるケースもあるわけですが、これを、「成長スピードが遅い」「やりたくない仕事を経験しないといけない」と捉えられ敬遠されるケースが多いように感じます。
なぜそのキャリアステップを歩む必要があるのか?ということを、ビジネスモデルや必要なスキルなど、背景を含めて丁寧に伝えていくことが、採用活動においてまずは大事なことなのだと考えています。

柴田:

そうですね。

戸川:

それから、誰もが変えた方がいいと感じている、その企業にある「古くからの慣習」については、少しずつでもいいので勇気をもって変えていく必要があるのではないでしょうか。
例えば、当たり前だったフル出社体制に、フレックス制度やリモート勤務などの体制を追加して整える、コミュニケーションもメールだけではなくSlackのようなツールを積極的に取り入れてみるといった具合に、変えられることはたくさんあります。

柴田:

変えるべきもの、変えた方が良いもの、変えるべきではないものを見極めることは非常に大事なポイントですね。
採用において流行りのバズワードってありますよね。「Z世代向け採用」や「SDGs」、「DX」といったものに追従していないと魅力的な企業と評価してもらえないのではないかという人事担当者の焦りのようなものがあるかと思うのですが、自社のスタンスや大事なポイントを貫き通してもいいのかなと感じています。

戸川:

確かにそうですね。SDGsやダイバーシティといった新しい流れに当たり前に取り組めているところは、変化に適応できる良い企業として映るのだと思います。
ただ、それらに取り組んでいることを伝える前に、その企業の幹である経営やマネジメントに対するポリシーやスタンスなどをしっかり伝えていくことが大切なんですが、結構サラッと伝えている企業が多い印象をもっています。    

柴田:

最近、自分のキャリアを継続的に向上させるという考え方が増えてきた気がします。

戸川:

そうですね。「ファーストキャリア」という言葉をよく聞きます。「ファーストキャリアをどこにするか」言い換えると、「若いうちにどんな経験を積み・成長できるのか」という軸で企業を選ぶ学生がどんどん増えてきて、キャリアに対して意識の高い学生では、ほとんどその観点をもって就職活動をしているのではないでしょうか。

柴田:

「転職2.0」といった考え方も流行ったかと思うのですが、一つ一つのスキルをタグのように捉えていて、しかも2~3年ごとにタグを増やしていき市場価値が高いキャラクターのように自分を育てていくといった感覚の学生も増えた気がします。
ただ、採用に携わっている立場としては、人事や経営サイドからするといい見え方はしないのではないかとも思います。2年で辞めていくんだろうなと受け取られてしまう場合もあるので、そういう評価をされる可能性があると意識した上でキャリアを考えた方が良いのではないでしょうか。

戸川:

そうですね。まだまだ短期離職に対して厳しい目線でみる企業も多くあるのも事実です。転職エージェントをしていたときに、転職歴の多い方に何人もお会いする機会がありましたが、これまでのキャリアを伺った際に、「将来的にやりたいことがあり、この企業でこういう経験が積みたくて入社して、一定経験が詰めたので、次はこういうことを経験したくて転職したい」といったストーリーがある人、それから一社一社でしっかりと成果を出し続けてきた人、そういう人はうまくいっている方が多かった印象です。
成果を出さずに転職していると、「嫌で辞めたのかな」とか「逃げたのかな」とか、どうしてもネガティブに受け取られてしまいます。
一方で、転職を重ねることは良い側面もたくさんあります。転職をして様々な環境に身を置くことで自分を客観視でき、自分の強みが何かを自覚できたり、本当にやりたいことや居心地のよい環境を理解したりすることができます。ただ、やっぱり一番大事なことは、一社一社でちゃんと成果を出すまでやりきって、今後のキャリアでも使えるスキル・経験をものにすることですね。

(聞き手:アクティベーションストラテジー㈱コンサルスタッフ 柴田)