デジタルトランスフォーメーションの勘所 第2回:デジタルトランスフォーメーションとは何か?

前回は「デジタル化とはなにか?」ということからはじまり、そのメリット/デメリットにも言及した。
今回は「デジタル化(Digitalize)するということは何か」について言及をはじめ、デジタルトランスフォーメーションに迫っていきたい。

■デジタル化(Digitalize)するということ

前回、デジタル化(Digitalize)するということは、単純に手段やコンテンツをデジタルに置き換えることではないと言及した。
その意味では、ソフトウェアロボットを活用したRPA(Robotics Process Automation)はデジタル化の文脈では注目され、活用されることが多いが、単純に現在の自分の担当する業務をソフトウェアに代替させるだけでは、乱暴な言い方をすれば20年前のDigitizeの域を出ないとも言える。
業務プロセスやバリューチェーン全体にわたって付加価値が低く反復性のある業務を自動化しつつも、順番に流れていっていた作業工程を一括で実現できるようにし、その間に行われていたプロセスを全て無くしてしまうほどのインパクトを持ってして、Digitalizeだと言えるわけだ。
例えば筆者が注目しているのは3DプリンターによるAdditive Manufacturingだ。
図1にAdditive ManufacturingとGenerative Designの概要と適用例を示す。

3Dプリンターは、すでに様々な量産部品にも用いられているのは周知の通りだが、それらを物流網が届きにくい僻地に複数台備えておき、スペアパーツや補材はCADデータのみ送信して現地側ではパーツを出力して利用するといったことが起こっている。
また3Dプリンターを応用した積層成形によるモノづくりでは、極めて複雑な造形であっても可動部品があっても、本来は複数パーツを組み合わせたり、切削で複数の工程を経て作りあげるのに、1回の積層成形で当該部品を作ってしまうことが可能だ。
このことにより、部品点数を劇的に下げ、それら部品の組み立て工程をも不要にしている訳だ。
コスト削減の効果は部品管理や組み立て工程を知っている方々であれば絶大であることは容易に想定できるはずだ。
また、Generative Designも3Dプリンティングを前提とした設計手法としては驚くほどの手法だ。
生物の進化の過程で強度が確保されながら進化してきた骨組みや構造のデータをデータベースに入れておき、接合部分や強度を入力すると、それらデータベースの中から最適な骨組みや駆体構造を人工知能が自動設計してくれるという代物だ。
もちろん、どうしても骨骨しいデザインにはなってしまうものの、人間では到底デザインし得なかった複雑な形状を設計し、それをそのまま3Dプリンターで積層成形してしまうわけだ。
これらのトレンドを踏まえると、モノづくりが大きくバリューチェーン全体で変わってきているのをつとに感じる。図2にそのモデル図を示す。

前述のような技術や手法をフルに駆使すると、デザインはAIで自動化し、3Dプリンターで設計製造は自動化し、組み立てが不要、物流と在庫が不要という極めてシンプルで自動化されたバリューチェーンが実現する。

ここで例示したように、単一のプロセスや目先の自分の業務などに終始していない。
使える技術は全て使ってビジネスモデル全体を変えていくこと、そこまでやってこそDigitalizeだといえるわけだ。

■デジタルトランスフォーメーションとは
世間で言われるデジタルトランスフォーメーションとは、まさにこのDigitalizeしていく大きなムーブメントのことであり、一朝一夕で完成するようなものではない。
また、前回言及したように、手段をデジタル化して喜ぶようなものではないのだ。
もちろん、長期的なロードマップの第一段階は、紙で出力していたものをデジタル化することから始まるかもしれない。
しかしながら、その先にどのようなデジタル化したあとのビジネスモデルやDigitalizeが成功した場合にどのようなバリューチェーンの姿があるかを見据えた上で取り組んで行かなければ、現場での場当たり的かつ部分最適な改善に終始してしまうことだろう。
それでは、いつまで経ってもトランスフォームした後の姿にならないのだ。
あらためて定義すると、デジタルトランスフォーメーションとは、デジタルにまつわるテクノロジーの力を用いて、これまでにないDigitalizeされたビジネスモデルやバリューチェーンを実現していく事に他ならない。
ただし、一方で全てがデジタルで完結するわけでもなく、フィジカルな設備機器やフィジカルなIoTデバイスや3Dプリンターの設置・活用などを通じてでなければ、データによるオペレーションに移行できないという制約も存在する。
また、オペレーションに介在する人が理解できるようなものでなければならず、人のマインドセットやデータ活用のスキルといったものも併せてトランスフォームすることが必須となってきている。
そんなことも含めたデジタルトランスフォーメーションの取組が必要となってくる。

■デジタルトランスフォーメーションで目指すものとは

では、デジタルトランスフォーメーションで目指す姿というのはどんなものなのだろうか。
前述のように、Digitalizeされたビジネスモデルである、ということに変わりはないが、一つの概念としてIoTへの取組時にも言われるように、「Digital Twin」を目指すと言うことが大きな一つの方向性となり得る。
Digital Twinとは「デジタル上の双子」という意味だ。
現実世界では、時間も止められず物理法則に基づくモノの様々な要因で予測不可能な事が起こってトラブルが発生することが多い。
そういった現実世界のモノや人の動き、設備の稼働状態、動作している環境の情報などを、センサを使ってリアルタイムに継続的にデータとして収集することができれば(すなわちコレがIoT)、それらのデータを活用してデジタル世界上で再現してできるだけ高精度にシミュレーションすることができるのではないか、これがDigital Twinでやろうとしていることだ。
もちろん、高精度なシミュレーションのためには、できるだけ多くのパラメータを現実世界から収集せねばならず、またそれをできるだけリアルタイムにシミュレーションできるような環境が次第に必要とされる。
コンピューティングリソースが十分に存在していれば、デジタル空間上では時間を止めたり過去に遡ったり、大量のデータから今後起こり得る未来を何通りもシミュレーションして予測可能となる。
実はこの予測可能性に大きな可能性があるわけだ。
変化が激しくボラティリティが高い現在の世の中で、数多くのシミュレーションシナリオを持てると言うことは経営上、非常に心強い指針となる。
データに基づいて判断し、データに基づいて予測を行うわけだ。
大量のデータは人の分析能力を超え始めるため、AI(人工知能)を活用して分析・シミュレーションを行うと共に、現実世界にその結果をフィードバックし、最適な状態にできるだけ自動制御しようとしているわけだ。図3にそのイメージをしるした図を示す。

Digitalizeされたバリューチェーンやビジネスモデル全体を見据え、そのなかで大量のデータを元にシミュレーション可能・予測可能な環境を実現し、現実を最適化していくDigital Twinを実現すること、これがデジタルトランスフォーメーションの目指すことなのだ。

次回はなぜこのようなデジタルトランスフォーメーションが必要となってきたのか、「デジタルトランスフォーメーションが叫ばれる背景」について言及していきたい。

CDIソリューションズ(現アクティベーションストラテジー) 顧問
八子 知礼(やこ とものり)